私どもは、かつてお客様のことをしっかりやっていれば良いのだという安易な気持ち
から、不動産業者間の取引をなおざりしていた時期があります。
平成23年に「レインズ情報取り扱いガイドライン」が発表され、平成26年2月より
「レインズ利用ガイドライン」が施行されたことに無頓着でした。元付会社の情報を
元付会社の広告承諾書を取得せずに、昔ながらの方法で弊社のホームページに
掲載していたため、宅建協会から注意を受けたことがあります。爾来、広告掲載
には必ず元付会社の広告掲載承諾書を得るか、許可をえて広告掲載をしてい
ます。これも不動産業者のコンプライアンス違反と言えなくもありません。
しかし、不動産業界にはこの程度では済まない顧客との法廷闘争まで発展した
事例が毎年いくつかありますし、泣き寝入りや黙認されたコンプライアンス違反の
事例にいたっては枚挙にいとまがありません。
最近、よく耳にするようになった、この「コンプライアンス」とは、そもそもどういう
意味なのでしょうか。ネットで辞書を調べてみると、日本では「法令遵守」という
意味で使われていることが大半で、他に「企業活動において社会規範に反する
ことなく公正・公平に業務を遂行することをいう」とあります。
例えば最近のことですが、ある大手不動産会社の専任物件である中古戸建てを
お客様にご紹介して契約の運びとなったのですが、事前調査の段階で敷地内に
あるべき境界標の表示や形跡がなかったので、売主側の業者が大手ということ
もあって、引渡しまでには、きちんと対応してもらえると思って安心していたのです。
ところが、送られてきた「重要事項説明書案」「契約書案」の境界明示のことで、
契約書には「売主は買主に対し残代金支払日までに、土地につき現地にて境界
標を指示して境界を明示します。なお、境界標がないとき、売主は買主に対し、そ
の責任と負担において、新たに境界標を設置して境界を明示します。ただし、道路
(私道を含む)部分と土地との境界については、境界標の設置を省略するとことが
できます」と謳いながら、重要事項説明書の特約条項に「売主が第5条(契約書)
に定める境界明示を行うにあたり、その責に帰すことのできない事由により本物
件と隣接地との境界について境界標を設置することができないとき、売主は買主
に対し、境界の状況を別紙『境界に関する説明書』にもとづき説明するとともに、
同書を交付することをもって、境界標の設置に代えることができます」との記述。
この文章を読むともっともらしく聞こえますが、売買契約書とは正反対の記述で
「売主の…責に帰すことのできない事由により・・・境界標を設置することができ
ないときは・・説明書で・・境界標の設置に代えることができる」。そんな馬鹿な・・。
売買契約書に境界明示について条項を設けているわけですから、明らかに宅建
業法違反で尚、民法第644条、同656条の「善良な管理者の注意 をもって,委任
事務を処理する義 務」(善管注意義務)違反になります。
法務省は数年前に筆界・境界について各法務局に筆界登記官を新設して、より厳しく
臨んでいますので境界について、こんなことで済むわけがない。
私はショベルを持って、もう一度現地に行き、所定の箇所を掘って確認しましたが、
4箇所ともコンクリート標がありません。
会社に戻ってすぐに県庁の建築安全課に電話をしました。私が考えているとおりで
したので、大手不動産会社の担当者である支店の営業部長に話しましたら、なんと
「県庁は介入しませんよ」とうそぶく始末。その挙げ句「そちらで5万円くらいでプレー
トを張ってくれる測量士はいないですか」「そういう危険な行為をやる測量士はいま
せん。県庁は業者とのトラブルには介入はしませんが、お客さんが県庁に相談し
たら県庁から呼び出しを受け、確実に処罰されますよ」と私が警告しても臆するこ
となく「スタンスが違うんだな」と言って電話を切ってしまう状態でした。契約前なので
処罰はされませんが、是正勧告を含めた指導を受けることは確実です。今年1月
末に契約予定だった当該の物件を、その不動産業者の営業部長は放置したまま
で、私共が働きかけても聞く耳を持たず、事態を解決しようという態度も示すこと
なく今日に至っています。
今までこの業者の営業部長は、こういうことを大手という虎の衣を借りて、平然と
私ども弱小業者に臨んで押し付けていたのです。 しかし、裏を返せば、今まで、
その大手不動産業者と取引した不動産業者は、その境界に関する説明に異議を
唱えることなく唯々諾々として、その条件を呑みお金にしてきたということです。
これが不動産業界の実態です。
平成29年6月1日、購入希望者のお客様から、ついに「購入を断念します」との
一報が入りました。「力がなく申し訳ございません」と言うほかありませんでした。
専任を取った大手の不動産業者の営業部長は、お客様が購入を断念することを
待っていたとしか思えません。自らの物件調査不足をひたすら隠し、900万円の
中古戸建で額が小さいから疎かにしたというだけでは済まされない。人の希望を
無残にも打ち砕いて平然としている、これが不動産業界の実態です。慙愧に
堪えません。
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